「バスカロンドラザーズへよく来てくれた。この酒場の付近で「密猟者」が見かけられてな。お前らの「目」を借りたい」
弓術士ギルドのマスター、ルシアヌさんから依頼をうけ、私達は、南部森林へとやってきていた。
ここ、バスカロンドラザースの店主から、周辺に密猟者がでるから調査してほしいとの依頼だった。
「お言葉ですが、この付近で「密猟者」が見かけられるのは、珍しくはないことでしょう。大きな被害があった様子もないが、何故、わざわざ?」
シルヴェルさんが、腑に落ちない様子で、バスカロンドさんに言葉を返す。
「それがな……ただの密猟者じゃない。「パワ・ムジューク」の一団だっていう話だ」
その言葉を聞いた瞬間、シルヴェルさんが息を呑むのを感じた。
心なしか、剣呑な雰囲気すら感じる。
レイさんは、パワ・ムジュークという名には心当たりがないみたいで、キョトンとしてるけど…。
取り敢えず、私達は、なにか手掛かりがないか、周辺を探索して見ることにした。
やがて、酒場の近くにある、監視所跡地が、パワの潜んでいる場所として怪しいと踏んだ私達は、その周辺を調べることにした。
完全に廃墟となっている監視所跡は無人で、一見すると、手掛かりもなにもないように思えた。
「見ろ、この床板の痕跡……。ミコッテ族のものだ。まだ新しい……」
その時、レイさんが、崩れた床板に付いた、真新しい傷跡をみつけた。
こんな薄暗い中、よく見つけられるなー。流石と言う他ないよね。
「!?……伏せろッ!」
その傷跡を確認しようとしゃがみこんだ瞬間、シルヴェルさんの鋭い声を上げた。
慌てて身を伏せると同時に、カッと音を立てて、廃屋の柱に矢が突き刺さった。
見れば、崖の上から、誰かがこちらに弓を向けている……あれが、パワ・ムジューク……?
「レディをコソコソと嗅ぎ回るなんて、不躾よ?」
夜闇に溶け込むような、黒い肌のムーンキーパーが、不敵に笑いかけてくる。
「賊が躾を語るか。面白い冗談だ」
シルヴェルさんが、木の陰に身を隠しながら、それに答える。
「頭と取り巻きはアタシがやる。ここは、二人に任せるわ」
「……好きにしろ」
木に身を隠しながら、レイさんが作戦を伝えてくる。
シルヴェルさん、てっきり反対するかと思ったんだけど…やっぱり、信頼しているんだろうなぁ。
すこしニヤニヤしながら、そんな事を考えつつ、シルヴェルさんの横画を見ていたら、私の視線に気が付いたのか、少々、バツが悪そうにしながら、シルヴェルさんは、咳払いをした。
「始めるぞ!」
シルヴェルさんの号令と同時に、レイさんがパワに射かけ、わざと姿を見せながら、向こうへと走っていく。
少しタイミングを遅らせて、私達も木陰から飛び出し、賊の一団を分断する。
「くっ……生意気な弓使いどもがっ!」
行く手を遮られた賊たちが、色めき立ちながら、こちらへと向かってくる。
…よし。気合入れていこう…!
「やったか? ……まあ、当然だな。レイは……?」
ふぅ…。
上がる息を整えながら、私は周囲を確認した。
辺りには、無力化した密猟者たちがうずくまっている。
「……あっちか。行くぞ」
レイさんのいる方を察知したシルヴェルさんが、私の返事を待たずに駆け出す。
やっぱり、なんだかんだ言って、心配なんだろうなー。
「情けないわね。それでもムーンキーパー?」
「レイさん…!?」
レイさんを追った先で、私は驚くべき光景を目にした。
パワ・ムジューク、それ程の実力の持ち主なの…?
「……っ!」
パワが、レイさんに止めの矢を放とうとした瞬間、シルヴェルさんの矢が、その弓を射抜く。
あれでは、もう、あの弓は使えない。
パワも引き際と察したのか、身を翻して走り去っていった。
「パワ・ムジューク……。アタシの弓が、さっぱり敵わなかった……」
「レイさん…」
レイさんは、悔しそうに顔を歪めながら、パワの走り去った方をいつまでも睨み付けていた。